ついにご対面!夢にまで現れたお方の生の高座をようやく拝見して参りました。 新宿末廣亭での興行は日程的にも体力的にも絶対無理でしたし、池袋もこのままコロナの勢いが収まらないと興行自体が危うい、それならば浅草一本に絞って賭けてみるかと決意。Twitterで情報を収集し整理券配布30分前に列に並んでみました。 幸運なことに着席出来るギリギリの番号を入手し、待っている間に友人から教えて貰った「亀十」のどら焼きの行列も偵察に向かうもやはり長蛇の列に戦意喪失して大人しく一旦帰宅。「問わず語りの松之丞」のアーカイブをBGMに2時間ほどお昼寝をして決戦に備えました。 さて、昼夜入れ替え時間の1時間前ぐらいに劇場についてみると既に人力車の往来を妨げるほどの待ち人の人だかり。通行人もなんだなんだと騒ぐ異様な盛り上がり。僕のテンションもうなぎ登り。なんて韻を踏んでる場合ではない。 貰った整理券番号から察するに一階席は無理であろうと判断して迷わず二階席へ。高座をほぼ真上から見下ろす形になる少々絶叫アトラクションのようなこの席を選んだ事が後々功を奏することになろうとはこの時は考えもしなかった。 前座一人を置いて始まった夜の部。ねづっちさん、米助師匠、円楽師匠など名の知れた名人達が面白いのは言うに及ばず、不勉強故存じ上げていなかった講談師や噺家さん達の何とも魅力的なこと。伯山先生のYouTube撮影番頭を務めている3人のうちの一人、桂鷹治さんの愛くるしい一席、神田松鯉先生・神田伯山でしか知らなかった講談の魅力を広げて下さった神田紫姐さん、客席を十分すぎるほど暖めて下さった三笑亭夢丸さん、昨今の練り上げられた芸と比べてしまうといささか緩く感じるも寄席にはちょうど良い塩梅のコント青年団さん、なんと同郷の大先輩だということが発覚した柳橋師匠、そして大役「ヒザ」を毎日務めていらっしゃるボンボンブラザースのほんわかとした愛しい芸。 誰一人として薄い印象の方はおらず、一晩経った今でもまざまざと思い出すことが出来ます。 そんな中、「参りました」と平れ伏したくなるお方がいらっしゃいました。 六代目三遊亭圓楽師匠です。 なんと噺はやらずに名人達の形態模写を披露するという不案内な僕にはそれが正道なのか邪道なのか判断はつかぬともただただ「あっばれ!」と感服しっぱなしの芸だったのです。 〆の名人に選ばれたのは亡き歌丸師匠。ヨロヨロと登場し座布団の上に仰向けになり顔に手拭いを載せるという大胆不敵な演出に会場はすすり泣きと割れんばかりの拍手の嵐。これだけでも十分に有り余るのに次の出番の松鯉先生の釈台をえっちらおっちら運んでくるというサービスぶり。 いつも笑点で見せる斜に構えたシニカルでキザな在り方が正直好みではなかったのですが、伯山ティービーで「あらら?このお方、もしかしたら全て演技なのかしら?」と心が傾きつつあったところへそんなパフォーマンスをされたものですから、単純な僕は一気にファンになってしまいました。 松之丞時代の語りでしか聞いたことがなかった「谷風の情け相撲」を松鯉先生が実に軽やかに和やかにおやりになり、ボンボンブラザースのホッとする芸で客席の異様な熱気も落ち着き、いよいよ真打の出番。 感無量でした。 つい先日拝見した「ウエストサイドストーリー」のグルグル回転する舞台が鮮明に思い出され、語りであるにも関わらずまるでアニメやCGを駆使した映画を想起させる演出に終始唸りっぱなし。果たしてこの人に演じられない人物像など無いんじゃなかろうか…と思うぐらい決して少なくない登場人物全員を巧みに演じ分け、キュウリに塩を揉み込むようにゴリゴリとイメージを観客の脳に擦り込む。めくるめく情景描写に450人の観客はすっかり心奪われ恍惚と聴き入る。 ふと、アドルフ・ヒトラーの演説が脳裏を過ぎりました。 ヒトラーの掲げた大義名分は最初は素晴らしいものであったと聞きます。結果こそ負の遺産となってしまいましたが、彼の成し遂げようとしていた全てが悪であったとは僕は思いません。 六代目神田伯山という人間はその類稀なるカリスマ性と話術という点ではヒトラーと酷似している気がします。目指すところが「選民主義」や「世界統一」ではなく、「くだらねえ派閥争いなんか辞めて風通しの良い気風作ろうぜ」であるからこそ、これだけ多くの支持を得ているのでしょう。ここに少しでも政治を揶揄するような匂いが紛れてきたら危険です。 本拠地を失った講談が寄席にお世話になることでかろうじてその息の根を絶やさずに済んでいる現状があり、一方ではその家主は二大派閥と小さな団体に分かれ高座に上がりたくても上がれない芸人が沢山いる有様。そんな時にあろうことか居候の身から一気に100年に一度の逸材が現れ、部外者であるが故に御大達も頬を緩めて好きにやれとけしかける。 彼の身にずしりとのし掛かる重責を思うと、張り扇のパンパンという乾いた音が銃声にも聴こえて手放しで笑えなくなった自分がいることに驚きました。 これじゃあどこぞの政治と大して変わらないじゃないか… 段々と悲しい想いに囚われ始めた時に、先ほどの円楽師匠の歌丸供養と松鯉先生の情け相撲がフラッシュバックしてきたのです。 お二人に限らず寄席に関わる全員が全身全霊で彼の襲名披露を援護射撃しているのです。俺たちの目の黒いうちはお前を一人で最前線に立たせて蜂の巣にする訳にはいかん! スタンディングオベーションの中、真打の口から放たれた言葉はまさに全員の想いであったのでしょう。 「鈴本、ざまあみろ!」 言葉としては決して褒められたものでありません。しかしそこに込められた万感の想いは小屋を揺るがすほどの衝撃でした。 どうか彼が敬愛している亡き談志師匠のように生涯悪態をつき続け好き勝手に生きていけるような環境が整いますように。 どうか彼と同様気骨に溢れた青年達が現れているその芽を摘むような恥ずかしい国に成り下がりませんように。 あ、そうそう、二階席の特権について触れていませんでしたね。一階席だと釈台に隠れて見えないのですが、二階席からだと釈台に手を置いていない時の手の所作がよく見えるのです。松鯉先生が小噺をしている時に親指同士を割と高速でクルクル回していらっしゃるお姿がなんともまあ可愛らしくて、語りそっちのけでずっと指を見ておりました。ああやって噺に調子をつけているのだなぁと妙に親近感が湧き、自分も他人から見て不快ではない癖を身につけなくては、と思い直せました。 六代目伯山真打昇進襲名披露興行 @浅草演芸ホール 《夜の部》 鷹治/平林 ねづっち 小笑/転失気 夢丸/権助提灯 コント青年団 米福/近日息子 紫/出世の馬揃え 宮田陽昇 米助/野球寝床 口上 柳橋/長屋の花見 円楽/名人の形態 松鯉/谷風の情け相撲 ボンボンブラザ-ス 伯山/安兵衛婿入り
by reijiro_kaneko
| 2020-02-24 15:00
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